現代GPとは

2007>2009    ごあいさつ --- 商学部長・経営学研究科長 西倉 高明

「インタラクティブ型キャリア教育の手応え」

キャリア・デザイン論の授業が終わった時に「これが、大学の授業なんだ」と感想を漏らした学生がいたそうです。発表の際は理屈が通っていないと何度も文句を言われ、一つのことを徹底的に考えるように追い込まれたのは初めての経験だという学生もいました。それだけに、授業が終わった後の達成感も大きかったようです。他方で、GPの合宿において最終プレゼンに備え、学生たちが朝の三時、四時まで議論するのを見て、「学生たちはなんでここまで頑張るのか」と、感動で目頭が熱くなった教員もいたと聞いております。学生もしごかれて汗を流したかもしれませんが、教員もまた汗と涙を流したのです。

大学の品質保証が問われている今日、私たち商学部の試みは、そうした時代の要請にいち早く応えたものだと、自負しております。現代GPに採択された2007年頃は、定職に就かないフリーターの存在や、就職してから三年以内に離職する比率が高いということが問題になっていました。こうした社会的要請の強い政策課題として、在学中に働くことの意味を考えさせ、また大学と社会とのミスマッチを埋めるためのキャリア教育が求められていました。しかし、商学部はこうした現状を踏まえつつも、否、そうだからこそ、大学、少なくとも商学部がやるべきキャリア教育とは、「すぐに役立つ実務教育」ではなく、もっと基礎的な力、私たちはそれを「考える実学」と呼んでいましたが、「混沌とした現象の中から、問題を発見し、それを解決する能力」を磨くことだと考えました。そうした能力を身につけてこそ、学生たちは社会の中で自分の能力を活かすことができるからです。

とはいえ、キャリア教育と専門教育の融合をめざすインタラクティブ型キャリア教育の確立は、 実践事例の通り、試行錯誤の連続でした。しかし、三年間の取り組みの中で、キャリア教育を通じて、実務家と学生、教師と学生、そして何よりも学生同士が相互に刺激し合いながら、「自ら考える力」を育んでいく教育方法を確立できたという手応えを感じています。文部科学省の支援のもとで構築した新しい教育プログラムをさらにステップアップしてまいります。

最後に、こうした取り組みに対して、快く講師を派遣していただき、またパートナーとして貴重な時間と労力を割いていただきました企業の皆様には、この場を借りて心からお礼を申し上げます。

2007>2009    2007年度を振り返って

「思考リテラシーの獲得」

2007年度は、実際の授業( 2007実践事例)が始まったのが10月であり、提供されるキャリア・デザイン論は一コマ、プロジェクト・ゼミナールは三コマであった。GP採択の選定理由でも指摘されたように、「プロジェクト・ゼミナール等によって、一人ひとりの学生の能力が培われる過程についての具体的な指導プランが不鮮明」であり、その具体策が課題となっていた。幸い、小学生を対象にキャリア教育を実践していた有限会社ダブルワークスの難波氏と連携し、氏の提唱する「思考リテラシー」という考え方を導入することができた。その考え方とは、「学生に考えろと言っても、考えることはできない。」考えさせるためには、現状を徹底的に分析し、そこから問題を解決するための枠組みを教えることが大切であるというものである。

意図からすれば、図のように、1ないし2学期の学生を対象としているキャリア・デザイン論では、専門的知識はそれほど要求されず、課題に対して「自由」に発想することが重視される。むしろ考えるお作法を身につけることが目的であるため、現状分析シートや企画シートを埋めながら、問題や課題の徹底分析を行うこと、そこから課題解決の「切り口」を見つけるとともに、論理的に、つまり相手を説得する形で、企画を提案、プレゼンすることが義務付けられる。そしてそれが身につくまで、いわば「癖」になるまで、何度も繰り返される。これが第一ステップである。

第二ステップは、身につけた「思考リテラシー」を応用して、現実のビジネスが提供する「より制約の多く、専門知識が必要とされる」課題に対して、一つのテーマを半年かけてじっくり調査、課題の解決策を考えるプロジェクト・ゼミナールへ進むことになる。


約半年間の試行錯誤であったが、学生がビジネスの現場と向き合い、積極的に参加した効果は予想以上に大きかった。日本人の特性からかもしれないが、チームで学ぶことの成果はとくに大きい。学生は個人でも分析力を磨くことはできるが、グループ単位=チームで行う場合には、違う意見・考え方をもつ学生と一緒にひとつの結論に導く調整力、コミュニケーション力が必要になる。インタラクティブ型キャリア教育として、学生同士の学びがいかに重要であるかがあらためて確認された。更なる実験が続く。

2007>2009    2008年度を振り返って

「キャリア教育と専門教育の連携」

2008年度は、授業( 2008実践事例)が二年目に入ったことを受け、キャリア・デザイン論は3コマ、うち一回は二泊三日の合宿という初めての試みが行われた。プロジェクト・ゼミナールは8プロジェクト、うち二つが通年として、延べ10コマが提供された。2009年3月3日に開催されたプロジェクト・ゼミナールの成果報告会は、どれもすばらしい内容であった。なかでもとくに注目を惹いたのが、高田プロジェクト・ゼミナールによる市大生協との取り組みで、アンケート調査やPOSデータの統計的分析を駆使した売り場の改善提案は、単なる思い付きではなく、データの分析に裏付けられた学部生らしい(院生レベルという評価もあった)内容であった。

一方、二年目を迎え課題となったのは、専門ゼミナールとどのように連携していくかという問題である。インタラクティブ型キャリア教育は、理論とビジネスの現場との相互作用をめざしているが、多くの大学においては専門ゼミのレベルで取り組まれる傾向がある。ところが、今回のプログラムでは、キャリア教育を1ないし2回生を主な対象として行ったことから、いくつかの興味深い成果が現れた。その一つが、この方法がその後の専門教育において、目的意識を持った専門科目の受講、専門ゼミナールの選択など、高いモーティベーションを維持するのに効果的な方法であることがわかったことである。すなわち、「鉄は熱いうちに打て」という格言通り、できるだけ初期の段階から学生の問題意識や学習意欲を高めることが、学生の能力をトータルで飛躍的に向上させることにつながるということである。

このことは、学生が段階を踏んで体系的にどう知識を習得していくか、カリキュラム体系の再考につながることを意味する。他方で、プロジェクト・ゼミナールと専門ゼミナールとの違いが曖昧になるが、プロジェクト・ゼミナールの場合、パートナーが存在し、事前に内容について相互了解に基づく計画を立てるため、半年後に一定の成果が出るように、進捗管理を行う必要性が出てくる。そうした方法が学生にしても、教員にしても、通常の期間が限定されない専門ゼミナールとは違って、成果(発表)を意識した指導という違うスタイルをとらせることになり、成果に結びついているという意見もみられた。いずれにしても、二年目はキャリア教育と専門教育をどう具体的に連携し、教育効果を高めていくかが課題になったのである。

2007>2009    3ヶ年を終えて --- 商学部・経営学研究科教授 加藤 司

「進化を遂げるインタラクティブ型キャリア教育」

最終年度はキャリア・デザイン論が3コマ、プロジェクト・ゼミナールが7コマ提供されまし た。2010年3月3日の最終報告会では、プロジェクト・ゼミナールから選抜された4チームが成果 報告を行いました。学生の報告は全体として大変レベルの高い内容で、実務に詳しい教員から は「社会人のプレゼンと比べても全く遜色がない」という評価をもらう程でした。最終報告会 に合わせて開催されたシンポジュームの内容を紹介しながら、今後に向けた三年間の総括を行 うことにしたい。

実践事例の通り、学生をビジネスの現場に連れていき、現場が抱える課題を「ミッション」 として与え、学生がその解決策を提案して現場から評価を受けるという方法は、学生が能動的 に課題や社会と向き合う「場」を作り出すという点で、極めて効果的なキャリア教育でした。 もともと商学部の学生はビジネス志向であり、勉強よりも現場から刺激を受ける方が性に合う のかもしれません(笑)。いずれにしても、与えられた課題を、学生同士が議論を重ねなが ら、徹底的に考え抜き、チームとしてひとつの提案まで練り上げていく、しかもそれを分りや すくプレゼンするという作業は、学生たちを短期間に見違えるほど「成長」させました。その 成長ぶりは教員にとっても、新鮮な驚きでした。

学生に対してそういう「状況」さえ作れば、教員は何もしない方が良いという意見もありま したが、問題は「考えろ」と言われても「どう考えたらよいか分からない」という学生も多い ことです。そこで、主に一回生を対象として実施されたのが、「考えるお作法」を学ぶキャリ ア・デザイン論でした。そこでは、現状を徹底的に分析し課題を発見するプロセスと課題に対 する解決策を提案するプロセスに分け、シートを埋めることで、経験のない学生でも「考え る」ことが出来るようにしました。簡単なシートですが、このシートに基づいて課題を「徹底 的に考え抜く」ことで、解決策も自ずとあぶり出されるようになる魔法のシートです。私たち はこの方法を「思考リテラシー」と呼び、それが身につくまで徹底的に繰り返すことを実践し ました。

またこのキャリア・デザイン論では、シートを使って学生が考える際に、教員やTAが声か け、突っ込みを入れる事で、論理的に考えるよう誘導しました。心を鬼にして、あえて論理の 弱さを突くようにしたため、学生から恐れられた教員もいました。もちろん、教員と学生との インタラクションは重要ですが、教育においてそれ以上に効果があったのが学生と実務家、そ して何よりも学生同士のインタラクションでした。まさにインタラクティブ型キャリア教育の 核心は、チームでの学習であり、学生たちは他の学生との意見の違いを調整するのに苦労しつ つも、自分と違う意見や能力をもつ他の学生を互いに尊重していたように思います。

他方でキャリア教育の限界について指摘されたのが、学生提案の「中身」でした。確かに考 え抜かれたものもありましたが、単なる思いつきも多かったように思います。「主婦の発明と 同じで、面白いが、深みがないというか、社会の構造を変えるような大きな提案になりにく い」という問題です。もちろん、今回のキャリア教育においても、新しい提案は誰に喜んでも らえるのか、ターゲットを明確にするとともに、社会にとってどのような意味を持つのかをし つこく考えさせるという工夫はしました。ただ、これも曖昧な問題や解決策を詰めていく手法 としては効果的であっても、従来と全く異なる発想は促進していなかったかもしれません。学 生の優位性は現場の「制約」を気にせず「自由」に発想できるところにあるはずです。しか し、その強みを武器とするためには、豊富な知識が求められることは言うまでもありません。 これはキャリア教育において当初から認識されていたことで、現実の問題や課題に目覚めた学 生が、より深い提案をしていくためには多様な視点や体系的な知識を学ぶ専門教育の重要性を 自覚してもらう以外に方法はないと思われます。

キャリア教育とは何か、どのような方法が効果的か、また専門教育とどのように融合させる か、課題はまだまだ残されていますが、これまでの三年間の実験を通じて商学部のインタラクティブ型キャリア教育は今後更なる進化を遂げることは間違いありません。その確かな手応えを感じながら、ご協力いただいた企業の皆様に感謝しつつ、三年間の試行錯誤のまとめと致します。



2009年度・現代GP成果報告会